地域を支援する仕事とは

 郡上市には現在、地域を元気にするため市外から4人が移り住んで活動を行っている。その名も「地域おこし応援隊」、そして「地域おこし協力隊」。

 国や県の補助金に頼らない、郡上市の単独事業とのこと。市の予算が厳しい中、市内でも過疎化が進む地域で重点的に取り組まれ、従来の公共工事や箱モノではない「人」による地域活性が期待されている。


■「ぶっちゃけ、郡上の暮らしはどう?仕事で困っていることは?」

平成23年5月31日。派遣から2カ月たったこの日、郡上市役所担当者による懇談会が行われた。

 郡上市外から来た隊員の皆さん。皆さんの受け入れ先も地域団体なので、会社のように業務について上司や部下、マニュアルがあるわけではない。新しい職場、というだけでも大変なのに、暮らし自体も一変する、そんな新たなチャレンジを始められた皆さんのお話を伺った。

 会場は市民有志でつくった未来の里山づくり団体「ふるさと栃尾里山倶楽部(明宝)」の活動拠点で、空き家を再生した古民家「源右衛門」。会議室と違う穏やかな空気の中、懇談会はスタートした。



■ 都会と田舎 … 仕事のスピードの違い

 和良おこし協議会 小林隆臣さん
 赴任先:和良町/岐阜県安八町出身

「和良での暮らしは、環境はいいし、気にいっています。信号やコンビニはゼロだし、スーパーは6時に閉まるし(笑)

 戸惑うのは仕事のスピードの違い。今まで東京では自営業をしていましたが、自営業は自分で決めてすぐ行動できる。地域での決めごとは会議では決まらず、各団体との調整が必要です。仕事的にみると大分スピードが遅いですね。なかなか動けないのが田舎なんだな、ということがわかりました」

<主なミッション>
・高齢者の見守り
・耕作放棄地の活用支援
・地域資源の活用


■自分が手掛けることが効率的なのか不安です

 
めいほう鶏ちゃん研究会 木村聖子さん
 赴任先:明宝/青森県六ケ所村出身

「仕事をやり始めると、周りがやって欲しいことがどんどん出てくるのですが、果たして自分がその業務をするのに効率的なのか、悩んでいます。例えばイベントで、入れ込み予想に基づいて鶏ちゃん何食分、準備品は何…というのは経験したことがないからわからないんです。本当は今までやった経験がある人が段取りをした方がはるかに効率的だ、と思うんです。ただ地域の方はみな仕事を持ち忙しいので、自分が一番動けるのでしょうが…。

 今は相談して適した人にお願いし、本来のPR業務やマスコミ対応をもっとできるようにしたい、と考えています。」

<主なミッション>
・地域資源「鶏ちゃん」のPRなどで地域コミュニティビジネスを促進
・地域の伝統芸能や祭礼への参加


■ 地域の課題が次から次へと出てくる

 石徹白地区地域づくり協議会 伊豆原理恵さん
 赴任先:白鳥町石徹白/愛知県みよし市出身

「ミッションをいただいて地域に入るわけですが、地域のことをやっていると、仕事以外の課題がいろいろと出てきます。とはいえ、何でもかんでも窓口になるのも困りますね。

 優先順位を付けて業務を行い、できないものは断っています。でも地域のことなので断りにくいのも事実です。自分は社会人経験が長いので、「できません」とはっきり言えるけど、若い人が応援隊で入って断りきれないと、本人は大変になるのではないでしょうか」

<主なミッション>
・地域食材を活用した商品開発と販売開拓サポート
・地域伝統芸能への参加


■プライベートと仕事の区別が難しい

 ふるさと栃尾里山倶楽部 安井佐代美さん
 赴任先:明宝/愛知県名古屋市出身

 プライベートと仕事の線引きに戸惑うことがあります。現在は地域の活動拠点である古民家・源右衛門に住まわせてもらっているわけですが、源右衛門の片づけや掃除は、家としてはプライベート、皆が集まる場所としては仕事なのか、線引きが微妙です。

 また源右衛門には自然エネルギー施設がついています。震災の影響で自然エネルギーに注目が集まり、取材依頼がたくさん来ます。私は住んでいる人としてインタビューを求められますが、質問は決まって「自然エネルギーの暮らしはどうですか」というものです。

 私はここの暮らしがしたくてここに住んでいるので、自然エネルギーは関係ないんです。エネルギーがなくても、ここは山と水があるから生きていける、と思っています。

 実際自然エネルギー施設のある生活は、実証実験の設備なので、無駄にしないようにと考えて生活していましたが、とても疲れます。だから今は、普段の生活では気にしなくなりました。自然エネルギーに振り回される生活は疲れるんです。

 そうした暮らしを伝えたいのに、自然エネルギーのある暮らしについて答えを求められると「別に」としか答えられないので、インタビューはすべて断らせてもらいました」

<主なミッション>
・里山や古民家を活用した都市住民との交流などで地域コミュニティビジネスを促進
・地域の伝統芸能や祭礼への参加



■市担当職員より

「活動が活発なので、処理する事務量も大変だと思います。「これは自分の仕事ではない!」ということも正直に言ってほしいと思います。

 一方、市役所もやってほしいことがあるので、皆さんに要望をもっと言っていければと思います」(郡上市役所 明宝振興事務所):


「地域に住んでいると、仕事とプライベートの切り分けは大変ですよね。特に安井さんは住まいと職場が一緒なので、余計に大変だと思います。

 今住んでいるところはお客さんが来るところなので、10mでもいいから離れたところに住んだ方がいいですね。安井さん自身の、本来の生活に戻ってほしい、と思います」 (郡上市役所 市長公室 地域振興課長)


「マスコミには大いに露出してもらい、是非週刊誌などにも取り上げてもらえるようにしましょう。記事になったり露出が多くなることは、郡上の追い風になるはずですから。マスコミ対応に困ったら、地域振興担当に伝えてください」(郡上市役所 市長公室)


■空き家があるのに借りられない!

小林さん(和良):
「和良は若い人がいないと成り立たないですよね。今課せられた仕事をしていますが、大きく見ると、若い人に帰ってきてもらうためにはどうするか、が気になります。

 また人が住むには、空き家を貸してもらえない、というのが課題ですね。空き家だけど仏壇があるとか、盆と正月だけは使うから、とか田舎独特の事情があります。

 仏壇の保管場所とかつくって動かしてあげたら貸してもらえるんでしょうか?数年空き家にしたら仏壇を動かしてください、とか行政サイドでルールができないかな、と思います」

伊豆原さん(石徹白):
「自分が職務として地域に入るときに、地域の人が非常に苦労して家を用意してくれました。空き家といっても持ち主にとって「家には人がいなくなっても、魂はある」という、大切なものです。

 協議会では石徹白の移住促進を行っているが、自分の友達が石徹白に来たい、と仮にいっても実際には家を探すのも大変で、積極的に勧めることができない。きちんとした受け入れ体制をつくることが大切だと思います。

 家を貸すのにも家主にとっては借りる人が信用できる人か不安なので、公的な信用機関ができて仲介ができるといいのではないか。

 また、すぐに地域の暮らしに馴染むことはできないので、“自活して暮らすトレーニング期間”が持てることも必要なのかもしれません」


■市担当職員より

「10年くらい前には、八幡町で規制を検討したことがありました。「空き家課税」です。

 郡上八幡の町は城下町で古い町並が残る美しいところですが、「空き家課税」を導入すると、家をつぶして空き地にしてしまう、という問題がでました。

 郡上八幡は町並が財産なので、この規制は見送られました」(郡上市役所 市長公室 地域振興担当)



「源右衛門(会場となった古民家。空き家を地域の人で再生し、地域活動の拠点となっている)に来てもらい、市民の方にこうした空き家活用があるのだ、という成功例を見てもらうのがいいのかもしれないですね」(郡上市役所 市長公室 室長)

 



■応援隊の目標は「地域の幸せ」

伊豆原さん(石徹白)
「応援隊の目標は、地域の人が幸せになる、そのお手伝いをすることだと思うんです。「石徹白の人が幸せになること」が着地点ですね。着地点は各地域によって違うのではないでしょうか。これをすると地域が活性化する、という画一した計画を地域に提案するのは間違いだと思います。

 地域のニーズに寄り添い、小さなことでもその人が幸せになることに協力したいと思います。ビジネス的にいえばこうすればもっと儲かるのに、というのはありますが、あくまで地域のやりたいことを形にすることが仕事だ、と思っています。

 石徹白は石徹白のゴール点を持つことが必要ですが、その時に一緒にゴールを探してくれる人がいないと、凄くつらいですね」


■市担当職員より

「地域には地域活動を行っている団体がたくさんあります。所属団体だけではなく、様々な団体の集まりに参加して、意見をいってもらえると、お互いの刺激になって新しい発見ができるのではないか、と思います」(郡上市役所 明宝振興事務所)


「郡上市では仕事の改善を目的に、目標管理を市職員に課しています。(自分自身がどうありたいか、ということなので)現在の受け入れ団体との協議ではなく、自分自身の具体的な目標をご自身でつくられるといいのではないか、と思いますので是非つくってみてください」(郡上市役所 市長公室 室長)



 今回登場しなかったが、郡上市で応援隊、支援員を受け入れている各団体は、それぞれ地域住民で構成され、地域を愛し、そこに住み続けたいという人々が有志で活動を始めている。

 地域で産業を興し、経済を生み出し、「お金」が入るということは目に見える形の「地域振興」と捉えられている。行政や企業が支援しやすい形かもしれない。しかし「地域の幸せ」、そして「移り住みたい地域」はそれに加え、もう少し別のところにもあるのかもしれない。

 地域に人が入る、何かが生まれる … 郡上の中で今、確実に新しい動きが生まれたのだ、と感じた。地域を支援する活動の理由、それは地域の人々、新しく入った人々が守りたい、残したいものがここ「郡上」にはあるからではないだろうか。

 そして人が入るためには受け入れ体制の整備、とりわけ空き家の活用が話題となった。郡上市も長年取り組んでいるとのことで、まだ有効な解決策は見つかっていないようだ。しかし空き家は今後増えると予想され、景観、安全など様々な面から課題になっていくことま間違いない。

 今回はみなさんの仕事について触れることができなかったが、今後取材を通して実際の活動をお知らせしたいと思う。次回は小林隆臣さんが働く、和良を訪ねる。

(取材:小林謙一)


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